その手が離せなくて

真剣な表情で私を見つめる彼と目が合った。

途端に、まるで施錠された様に目が離せなくなる。


「悪かった」

「――」

「騙すつもりはなかった」

「別に・・・・・・騙されたと思ってません」

「それに」

「――」

「俺は誰とでも、キスしたりしない」


真っ直ぐ告げられた言葉に、息が止まる。

胸が痛くて、辛い――。


「それだけは、勘違いしてほしくない」


再び目を背けようとした私に、もう一度真っ直ぐな言葉が刺さる。


誰とでもキスしない?

じゃぁ、あのキスに意味はあるの?

私は特別だとでも言いたいの?

でも、あなたは結婚してるんだよ?

奥さんが、いるんだよ?



どうして、そんな思わせぶりな事――。



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