その手が離せなくて

「それは」


今にも泣きそうだと思って、目を伏せる。

泣いて堪るか。

騙されてたまるか。

好きなんかじゃ、ない――。


「私が取引相手だからですか? そう言っておかないと後々面倒だから?」

「違っ」

「結婚してるのに、遊んでる事がバレたら会社にマズイから?」

「望月、違う」

「とりあえず良い様に言っておいて、口封じ?」

「望月、話を――」

「私は、暇つぶしの玩具じゃありません」


一歩私に近寄ってきた彼を制するように、勢いよく顔を上げて、そう吐き捨てた。

その瞬間、エレベーターの扉が開いて勢いよく駆け出す。

扉付近にいた彼から荷物と鍵を奪い取って、振り返りもせずに。



忘れたいのに。

なかった事にしたいのに。

気持ちに蓋をしたいのに。

どうして、繋ぎ止めようとするの――?


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