その手が離せなくて
細見のスーツを着こなした、遠目からでも分かるその精悍な顔立ち。

ニッコリと笑ったその顔に、周りを取り囲んでいた女性達が見惚れているのが一目瞭然だった。


ハーレム。

その言葉が相応しい光景だった。



「相変わらず、すごい人気ですね。一ノ瀬は」


私が人だかりの方に目を取られていたのに気が付いたのか、隣にいた同じプロジェクトチームの一員で、彼と同じ会社の人が苦笑いを落とした。

その言葉を聞いて、視線を隣に向けて首を傾げる。


「相変わらず?」

「えっと、望月さんは一ノ瀬の事はご存じで?」

「――はい。名前くらいは」

「あそこの輪の中心にいるのが一ノ瀬なんですけどね。まぁ、一言でいえば完璧なんですよ、あいつは」

「完璧・・・・・・ですか」

「仕事も外見も性格も、何もかも。非の打ちどころがないって、あぁいう奴の事を言うんでしょうね」

「――」

「だから、結婚するって聞いた時の女性社員の悲鳴は凄かったですよ?」


くくくっと喉を鳴らして笑ったその人の言葉に、思考が停止する。

ゆっくりと視線を一ノ瀬さんに向けて、口を開けた。
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