その手が離せなくて

形のないもの、目に見えないもの、信じちゃいけない。

ましてや『愛』だの『恋』だの、そんな一番あやふやなモノ信じちゃいけない。


どんどん自分が惨めになっていく。

期待して、胸躍らせて、未来を想像して――。

そんなの、あの人は最初から求めていなかったのに。


「あのキスも、気まぐれか」


気持ちの籠っていないキスを、真に受けちゃいけなかった。

私だけドキドキして舞い上がって、バカみたい。


好きでもない人とキスくらい簡単だ。

大人になれば、そういうの理解できる様になった。

寂しさや悲しさを忘れるには、何より手っ取り早いから。



退屈な日々にスパイスを――。

そうでしょ?
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