その手が離せなくて
目を開けて、ギュッと目の前の彼に抱き着く。

切なさと愛おしさが一気に押し寄せて、泣きそうになったから。


この言葉を言えば、きっと、もう戻れない。

私の何もかも、変わってしまう。


それでも、私の中で覚悟は決まっている。

天秤にかけた相反する思いが、ようやく傾いた。

譲れないものが、できた。

間違っているのは分かっている。

それでも、この気持ちを捨てる事はできないと分かった。


ゆっくりと顔を上げて、一ノ瀬さんを見つめる。

そんな私を見つめ返す瞳が愛おしい。


「側に、いてもいい?」


『好き』とは言わない。

ううん、きっと言っちゃいけない。


彼の困った顔を見たくない。

『割り切った関係』だと思っていた方が、楽だと思うから。

それに、この気持ち押し付けたくない。


好きだけど、誰よりも大好きだけど。

あなたを誰よりも思っている事、悟られたくない。

向けた愛情が重荷だと感じられるのが、怖いから。


本気になって、あなたナシじゃいられなくなるのが怖い。

だから、この気持ちも『割り切った関係』だと思うようにする。

いつその手を離されても、傷つかない様に。


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