その手が離せなくて
コツ・・・・・・コツ。
ゆっくりとヒールを鳴らして、足を前に出す。
すると、彼も可笑しそうに微かに微笑んだまま前に進みだした。
互いに見つめ合ったまま、ゆっくりと世界が動き出す。
真っ青な世界の中で、ただ一つの黒を見つめて。
「ふふっ」
それでも、何歩か進むと青の世界が終わって視界が開ける。
すると、先程まで向こう側にいた人が目の前に現れて、思わず笑みが零れた。
「ビックリした」
無意識に出た笑みの下でそう言う。
すると、目の前の男性も同じ様にクスクスと笑いだした。
「俺も」
低さの中に混ざる、どこか甘い声。
その声に、また心臓が跳ねた。
ビー玉の様な真っ黒な瞳。
少し見上げる程の身長に、男性らしい体つき。
そして、見惚れてしまいそうな程、精悍な顔立ち。
だけど笑った瞬間、まるで猫の様になった。