その手が離せなくて

迷路


「望月」


不意に呼ばれて振り返る。

すると、遠くの方で手招きをしている部長が目に入った。


仕事を終えて帰ろうとしていた所だったのに。

小さく溜息を吐いて、渋々呼ばれた方に足を進めた。

ここ最近忙しかったから、今日くらい早く帰りたいのに。

ブツブツと心の中で文句を言いながら、部長の席の前で足を止めた。

こちらを見ていない事をいい事に、相当不機嫌そうな顔をしてだ。


「はい、なんでしょうか」

「あ~悪いが、届け物頼めるか」


カタカタとパソコンを打ちながら私の目も見ないで資料を持ち上げた部長。

その態度に一瞬イラッとして舌打ちが零れそうになる。

それでも、落ち着け。と心の中で呟いて、イライラを抑え込んだ。


「どちらにでしょう」


半ば奪い取る形で資料をもらい、一向に視線を上げない部長を睨み付ける。

これが人にものを頼む態度か?
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