その手が離せなくて
そんな私の言葉を聞いて、ようやく視線を上げた部長。

不機嫌そうな私を見て、何故かにんまりと不気味な笑顔を浮かべた。

思わず一歩後ずさりそうになったが、寸での所で踏ん張る。

すると。


「一ノ瀬」

「え？」

「例の一ノ瀬に届けてくれるか？　その資料」

「え？　え？」

「名刺がついてるだろ。その部署に行けば会える」


挙動不審になる私を見て、ニタニタと笑いながら顎をクイッと上げて、部長は私の持っていた資料をさした。

慌てて資料に目を落とすと、確かに彼の名刺が封筒の裏にクリップで止められていた。


「ついでに世話になった礼でも言ってこい」

「ちょ、え？」

「ついでに尻の一つでも触らせてやれ」


その一言を聞いて、ぶん殴りたくなったけど必死に抑える。

タイミングよく部長に電話がかかってきてしまったから。


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