その手が離せなくて
「一ノ瀬です。一ノ瀬高司」

「いちのせ、たかし」

「そっちは?」

「望月柚葉です」


淡い照明に照らされた彼の唇が、微かに私の名前をなぞった。

ゆずは、って。

その瞬間、微かに胸が締め付けられて、ドクドクと心臓が微かに主張を強めた。


「合コンなんて久しぶりに来たけど、なんか会社の新歓みたいですよね」

「ふふっ。それ、私もさっき同じ事思っていました」

「よかった。俺だけじゃなくて」


そう言った一ノ瀬さんは、悪戯っ子の様に一度深く笑った。

そして、大きく背伸びをしてから背もたれにドサッと体を預けた後、目の前に映る夜景に微かに目を細めた。


精悍なその横顔に、思わず見惚れてしまいそうになる。

無造作にセットされた黒髪に、何故か触れたくなる。


そんな時、不意にそのビー玉の様な瞳が私に向けられた。

途端に、慌てて視線を窓の外にずらして息を止める。


「望月さんは、いくつなんですか?」

「え!? わ、私ですか?」

「あ、ゴメン。聞いちゃマズかったね。女の人に年聞くなんて」


見つめていた事を知られたくなくて、まるで挙動不審な言動になってしまった。

すると、勘違いしたのか一ノ瀬さんが申し訳なさそうに頭を掻いた。

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