その手が離せなくて
もうすぐ春だ。
彼と出会って、初めての春。
一緒にしたい事は沢山思い浮かぶけど、それでも叶うはずもないと小さく首を横に振った。
「望月、始めるぞ」
どこか小さく溜息を吐いた時、先輩から声がかかって我に返る。
ここ最近、こうやって暇さえあれば彼の事を考えている気がする。
今、何をしているんだろう。
どこにいて、誰と一緒にいるんだろう――。
だけど、そこまで考えて、いつも胸が締め付けられる。
たまに忘れてしまいそうになる。
彼が『誰か』のものだって。
この胸の辛さを誰かに打ち明けたいけど、誰にも話す事はできない。
萌にも、もちろん話していない。
だけど、自分で選んだ道だ。
覚悟はできていた。