その手が離せなくて
徐々に縮まっていく距離。
一番後ろにいた私の姿を見つけて、微かにピクリと反応した彼。
そして。
「お、お疲れ様です」
周りと同じ様にペコリと頭を下げて挨拶をする。
すると、お疲れ様です。と言って、彼は精悍な顔をふっと緩めて微笑んだ。
そして――。
「――っ」
擦れ違いざま、私にだけ分かる様に示されたアイコンタクト。
じっと私を見つめて、意味深に微笑みながら小さくコクンと頷いた。
その仕草ですべてを察する。
いつも打合せで会う度に、こっそりと2人で会っていたのだから。
コクンと頷いて、返事をする。
すると、彼は一度深く微笑んで何も無かったかの様にエスカレーターを降りた。
ドクドクと心臓が鳴る。
頬は無意識に上がっていた。