その手が離せなくて





「はぁっ」


上がった息のまま辺りをキョロキョロと見渡す。

淡い外灯が木々をぼんやりと照らしているけれど、人影はない。


まだ来てないのかな?


あの後、先輩と少し今後の事について話した後、足早にここに来た。

あのアイコンタクトの意味が合っているなら、きっとここで待ち合わせのはずだから。

逸る気持ちのまま、もう一度キョロキョロと辺りを見渡して、どこかにいないか確認していると――。


「もしかして、俺の事探してる?」


不意に聞こえた声に、ハッと息を詰める。

声のした方へ勢いよく振り返ると、片手に缶コーヒーを2つ持って立っている一ノ瀬さんがいた。


「お疲れ」


そう言って、一気に笑顔になった私に歩み寄って、ポンッと頭に手を乗せてきた。

まるで猫の様に笑ったその笑顔を見て、私もお疲れ様。と呟いた。


< 178 / 366 >

この作品をシェア

pagetop