その手が離せなくて
◇
「はぁっ」
上がった息のまま辺りをキョロキョロと見渡す。
淡い外灯が木々をぼんやりと照らしているけれど、人影はない。
まだ来てないのかな?
あの後、先輩と少し今後の事について話した後、足早にここに来た。
あのアイコンタクトの意味が合っているなら、きっとここで待ち合わせのはずだから。
逸る気持ちのまま、もう一度キョロキョロと辺りを見渡して、どこかにいないか確認していると――。
「もしかして、俺の事探してる?」
不意に聞こえた声に、ハッと息を詰める。
声のした方へ勢いよく振り返ると、片手に缶コーヒーを2つ持って立っている一ノ瀬さんがいた。
「お疲れ」
そう言って、一気に笑顔になった私に歩み寄って、ポンッと頭に手を乗せてきた。
まるで猫の様に笑ったその笑顔を見て、私もお疲れ様。と呟いた。