その手が離せなくて
◇
「へぇ。企画を担当してるんだ」
「なかなか、やりがいはありますよ」
ビールを片手に私の話に耳を傾ける一ノ瀬さんにニッコリと笑う。
すると、感心した様に彼も微笑んでジョッキを口元に運んだ。
あの合コンパーティーを抜け出して、近くにあったバルに入った私達。
萌は標的の男性を見つけた様で、なんだか声をかける事を阻まれたからメールで抜ける事を伝えておいた。
「一ノ瀬さんは営業でしたっけ?」
「うん。毎日いろんな事が起こるよ」
「ふふっ。でも合ってると思いますよ。話上手の聞き上手」
「本当に? 俺単純だから、すぐに真に受けちゃうよ?」
おどけた様にケラケラと子供の様に笑う彼につられて、私も笑顔が自然と零れる。
不思議。
まだ出会って少ししか経ってないのに、ずっと昔から知ってる人みたい。
居心地がいい。