その手が離せなくて

















月が浮かんでいる。

ようやく灯りが消えだした世界の中に、ポッカリと。


ぎゅっと右手に握るのは携帯電話。

鳴らないと分かっていても、待っている。

彼からの連絡を――。


ふとリビングに目を向ければ、さっきまで萌が飲んでいた缶ビールが置いてあった。

それを見て、先程の萌の言葉を思い出す。


『応援はできない。ただ、何かあった時は頼って』


彼女らしい言葉。

どこまでも正義感が強くて、優しい。


ぶつけられた言葉達が胸の中で渦を巻いている。

『正しい言葉』が胸を焼く。

それでも。


「会いたいよ」


零れる言葉は、それだけだった。

溢れる想い、ただそれだけだった――。


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