その手が離せなくて

「・・・・・・はぁ」


何度目か分からない溜息が出る。

自分から連絡はできなかった。

奥さんが見ているかもしれないから。

彼の家庭を壊す事はしたくなかった。


デスクに座ってパソコンを立ち上げる。

きているはずもないのに、バカみたいに何度も携帯を確認した。



初めてだった。

こんなに辛いと思ったのは。


会いたいのに、会えない。

連絡したいのに、できない。

相談したいのに、できない。


不安ばかりが大きくなっていく。

もしかして、このまま二度と会えなくなるんじゃないかって。

そう思うと、今にも壊れてしまいそうだった。


それでも、このままじゃダメだと思って勢いよくパンッと頬を叩く。

若干隣の席の後輩が驚いた顔でこちらを見たけど、気にしない。

ダメダメ。仕事に集中しなきゃ。

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