その手が離せなくて
「失礼します」


不意に聞こえた、声。

どこか聞き覚えのあるその声に、ドクンと心臓が大きく跳ねる。

反射的に声の聞こえた方に視線を向けると、事務所の入り口には1人の男性が立っていた。


スーツを完璧に着こなした、その姿。

精悍なその顔立ちが目を引いて、事務所の女性陣の視線が一気に集まる。


「ちょ、ちょっと誰ですか、あのイケメン!!」


不意に隣にいた後輩が、興奮気味に私に小声でそう言う。

それでも、久しぶりに見たその姿に、思わず釘づけになる。


「一ノ瀬、さん・・・・・・」


吐いた息と共に漏れる、声。

自分ですらも聞き取れない程の小さな声。


スタスタと長い足を交互に出して、事務所の中を闊歩していく彼。

彼が隣を通る度に女性社員が甘い吐息を吐いて、その姿に魅入っていた。

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