その手が離せなくて
それは私も例外ではなく、徐々に近づいてくる彼の姿から目が離せないでいた。

それでも――。


「――っ」


私のデスクの横を通り過ぎようとした、その時。

ピタリと足を止めた彼が、小さく微笑んだ。


「お久しぶりです、望月さん」

「お、お久しぶりです」


まさか私に話しかけてくるなんて想像もしていなかったから、彼のその行動に頭がパニックになる。

それでも、冷静を装う様に会釈をして彼を見つめた。

そんな私を見て、彼がどこか業務的な笑顔を浮べながら、鞄の中から何やら封筒を取り出した。


「資料を預かってきました」

「え?」

「弊社とのプロジェクト企画のものです」

「あ、すいません、わざわざ。・・・・・・でも、なんで一ノ瀬さんが?」

「ちょうどこちらに伺う用事があったので」


渡された資料を受け取ったまま首を傾げた私に、彼はニッコリと笑った。
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