その手が離せなくて
まるで石になったように固まった私を見て、一度ふっと息の下で笑った後、彼は小さく会釈をして私の隣を横切っていった。
視線をその背中に向けると、スタスタと事務所の中を歩き、部長の元まで辿り着くと何やら仕事の話を始めた。
用事って、部長にだったのか・・・・・・。
「ちょっと、望月さん、知り合いなんですかっ!?」
放心状態になっていた私の肩をバシバシと叩く後輩。
その声で我に返ると、慌てて瞬きを繰り返して声を発そうとした、その時。
不意に手に触れた感触に動きが止まる。
さっき一ノ瀬さんから渡された資料の下。
何だろうと思って、封筒を裏に向けると一枚のポストイットが張られていた。
隣の後輩に見られない様に、それに視線を落とした瞬間、一気に胸が締め付けられた。
それと同時に上がる頬。
寂しかった心が一気に満たされて、涙が出そうになる。
そんな姿を後輩に悟られないように、いつも通りの声色で言う。
「――ただの、プロジェクト先の社員さんだよ」