その手が離せなくて





「はぁっ」


バタバタと駆けて、階段を下りる。

エレベーターなんて待っていられなくて、まるで転がる様に階段を駆け下りた。



ようやく外に出ると、少し汗ばんだ体に涼しい風が当たる。

辺りは既に真っ暗で、帰宅する人々が足早に歩いてた。

丁度その時、まるで見計らった様に携帯が鳴る。

慌ててポケットから取り出すと、思った通りの人からの着信だった。


「はいっ」

『また走ってきたんだ?』

「え?」

『息、あがってる』


クスクスと携帯の向こうで笑う彼の声が頬を上げさせる。

仕方ないな。って顔で微笑む彼の顔が安易に想像できて胸が締め付けられた。


「一ノ瀬さんは、もう仕事終わりました?」


心が逸る。

早く会いたくて、仕方ない。
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