その手が離せなくて
◇
「はぁっ」
バタバタと駆けて、階段を下りる。
エレベーターなんて待っていられなくて、まるで転がる様に階段を駆け下りた。
ようやく外に出ると、少し汗ばんだ体に涼しい風が当たる。
辺りは既に真っ暗で、帰宅する人々が足早に歩いてた。
丁度その時、まるで見計らった様に携帯が鳴る。
慌ててポケットから取り出すと、思った通りの人からの着信だった。
「はいっ」
『また走ってきたんだ?』
「え?」
『息、あがってる』
クスクスと携帯の向こうで笑う彼の声が頬を上げさせる。
仕方ないな。って顔で微笑む彼の顔が安易に想像できて胸が締め付けられた。
「一ノ瀬さんは、もう仕事終わりました?」
心が逸る。
早く会いたくて、仕方ない。