その手が離せなくて
携帯を耳に当てたまま、辺りをキョロキョロと見渡して彼がいないかを探す。

それでも、それらしき人影は見えなくて再び声を落とそうとした、その時――。


『そのまま、真っ直ぐに――40歩』

「え?」

『真っ直ぐ前に、40歩進んで』


そう言われて、言われた通りに真っ直ぐ前に向かう。

すると、徐々に人込みから抜けた。


『次は左を向いて、・・・・・・30歩』

「ふふっ」


まるで何かのゲームをしている様で可笑しくなる。

それでも、しばらくすると目の前には小さな公園が見えて、ちょうど30歩歩いた時に、そこに辿り着いた。


「ここがゴールですか?」


誰もいない公園を見渡して、そう言う。

小さなベンチがポツンと置いてあるだけの、小さな公園。

彼の姿を探して辺りを見渡した、その時。


「お疲れ様」


不意に後ろから聞こえた、声。

そして、その瞬間、そっと後ろから抱きしめられた。

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