その手が離せなくて
ふんわりと香る、彼の匂い。
振り向かなくても、分かる。
夢にまで見た、人だから――。
「ふふっ、お疲れ様」
そっと首元に巻き付いた腕に、自分の手をそっと添える。
温かい彼の腕に包まれただけで、何故か泣きたくなる程幸せだと思った。
「ポストイット、見た?」
「見たよ。もー、誰かに見られたらどうするの?」
「悪い」
クスクスと笑いながら、体を反転させる。
するとそこには、優しく瞳を細めて私を見つめる彼がいた。
「〝今日、あの日のお詫びさせて″なんて、明らかデートのお誘いじゃないですか」
封筒の裏に張られたポストイットに書かれていた言葉。
綺麗な文字で書かれたソレを見て、何度頬が緩んだか。
クスクス笑う私を見て、同じ様に笑った彼。
そして――。
「満開。ってわけじゃないけど」
まるで隠す様に持っていたソレを私の前に差し出す。
ピンク色のソレを。