その手が離せなくて

ふんわりと香る、彼の匂い。

振り向かなくても、分かる。

夢にまで見た、人だから――。


「ふふっ、お疲れ様」


そっと首元に巻き付いた腕に、自分の手をそっと添える。

温かい彼の腕に包まれただけで、何故か泣きたくなる程幸せだと思った。


「ポストイット、見た?」

「見たよ。もー、誰かに見られたらどうするの?」

「悪い」


クスクスと笑いながら、体を反転させる。

するとそこには、優しく瞳を細めて私を見つめる彼がいた。


「〝今日、あの日のお詫びさせて″なんて、明らかデートのお誘いじゃないですか」


封筒の裏に張られたポストイットに書かれていた言葉。

綺麗な文字で書かれたソレを見て、何度頬が緩んだか。


クスクス笑う私を見て、同じ様に笑った彼。

そして――。


「満開。ってわけじゃないけど」


まるで隠す様に持っていたソレを私の前に差し出す。

ピンク色のソレを。

< 226 / 366 >

この作品をシェア

pagetop