その手が離せなくて
「あ! あれは何?」
それからブラブラと車に揺られながら、緑に染まった景色を見つめる。
すると、道の脇にポツンと小さな祠が見えた。
「あ~湧水だな」
「湧水っ!! 飲みたいっ!!」
「はいはい」
まるで子供のお守りをする父親の様にそう言って、車を停めた彼。
飛び出す様に祠に駆け寄った私を見て、瞳を細めた。
「イボが治るらしいぞ」
「え、イボ?」
「飲んだら治るんだとさ」
「へぇ」
祠の側に書かれた看板を読み上げて、彼が微笑む。
想像よりどこかムードのない効能だな。と思いつつも、備え付けられた柄杓でちょろちょろと流れ出る水をすくい上げる。
想像以上に冷たい水に驚きながらも、柔らかいその水で乾いた喉を潤おした。
「おいし~っ!!」
「言う程じゃないだろ」
「飲んでみてよ」
「俺、イボないから大丈夫」
「ちょっと! 私もないから!」