その手が離せなくて
「帰り、気を付けて」
駅の改札口でニッコリと笑った彼に微笑み返す。
心はどこか陰っていたけど。
「俺あっちだから」
「あ、私はこっち」
微かな沈黙の後に、地下鉄の方を指差した彼に合わせる様に、自分の行先を指差す。
互いに反対方向を指差した途端、何故か寂しさで泣きたくなった。
また、会いたい。
繋がっていたい。
それでも、自分から連絡先を聞くなんてしたことない。
それに、一ノ瀬さんから全く聞こうとする素振りがないって事は、私には全く興味がないって事。
そういう、事――。
「じゃぁ」
「はい」
だから、片手を上げて去って行った彼の背中を、ただただ見つめる事しかできなかった――。