その手が離せなくて
「目閉じてていいぞ」
「・・・・・・うん」
「着いたら起こすから」
ポテンと彼の肩に頭を乗せた私の頭上にキスが降ってくる。
チュッと小さな音を立てて、彼はまた前を向いた。
まるで子供をあやす様に、ポンポンと一定のリズムで彼が私の肩を優しく叩く。
その温かい手と、彼の香りに、徐々に瞼が重くなった。
さっきまで疲れていない。なんて思っていたけど、急に眠気が襲ってきて、小さな欠伸をかみ殺す。
そんな私を見て、彼がクスリと小さく笑って再び音楽を小さくした。
「おやすみ」
ポツリと彼がそう呟くのを聞いて、瞼を閉じる。
ずっとこのまま家まで着かなければいいのに、なんて心の中で思いながら。
◇
「柚葉」
不意に聞こえたのは、彼の声だった。
重たい瞼をそっと開ければ、エンジンを切った車内が見えた。