その手が離せなくて

「うわっ! もしかして着いちゃった!?」

「あぁ。お疲れ様」

「ゴメン! 少しだけって思ってたのに」


ちょっとだけ寝て、起きようと思っていたのに爆睡してしまった。

慌てて彼に寄りかかっていた体を起こして、乱れた髪を直す。

それでも、彼は全く気にしていない様に大きく背伸びをした。


「いいよ。逆に寝ててくれた方が俺は嬉しいから」

「そ、そうなの?」

「安心してくれてるって思うじゃん」

「――」

「それに、寝顔可愛かったし」


言葉を飲みこんだ私を見て、まるで悪戯っ子の様にそう言った彼。

片方の口端を上げて、一度私の頬を指で撫でた。


ほんと、たまにこの人は驚くほど胸をときめかせる事を言う。

キュッと甘い胸の疼きを悟られない様に視線をずらして、ありがとう。と言う。

それでも、そんな私の心の中も彼にはバレバレの様で、満足そうに笑って、どういたしまして。と返された。
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