その手が離せなくて
思わず泣きそうになったけど、必死に笑顔を作る。

それでも、口の端がピクピクと痙攣するのを感じて下を向いた。


微かな沈黙が車内に満ちる。

聞きたい事は沢山ある。

話したい事が両手から溢れている。

その中から、一つだけ、言葉を選んだ。


「・・・・・・一ノ瀬さんは」

「ん?」

「どんな人が好き?」


本当に聞きたかった事かは分からない。

それでも、こういった事を聞いた事がないなと思って問いかける。

知りたいと思ったから。

今度会う時には、その理想に近づけたらと思ったから。


バレない様に小さく息を吐いて、ゆっくりと顔を上げる。

笑顔を、もちろん忘れずに。


そんな私の質問に、少しだけ視線を上に向けて考える素振りを見せる彼。

ん~と唸っているその隣で、答えを待つ。



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