その手が離せなくて
あの時の
『本当、バカだよね。柚葉は』
携帯の向こうから聞こえた声に、苦笑いを溢す。
もう、耳にタコができる程聞いた言葉だから。
だけど、その『バカ』が『どの事』に対して言っているのか定かではない。
「何度も聞いたから分かってるよ」
『何度言ってもそう思うから、言ってるの』
そう言って、頬を膨らます萌の顔が容易に想像できて、思わず口元を緩めた。
行動派の萌からすれば、私のどこかのんびりとした性格は、もどかしいものなんだと思う。
『2週間も音信不通の彼氏なんて、彼氏じゃないよ』
その言葉を聞いて、晶の事に対する『バカ』だったのかと理解する。
「仕事忙しいんだよ、きっと」
『メールの一通送る暇も無い程?』
「うん」
『ありえないから』
萌の適格な指摘を受けて、返す言葉に困る。
ここ最近、彼氏の晶からの連絡が途絶えている。
きっと年末が近いから、仕事が立て込んでいるんだと思う。
だけど、寂しいとか、そんな感情は私の中には芽生えなかった。