その手が離せなくて

「初めは思った事もあったよ。もし、もっと早くに出会っていれば、私の人生は変わっていたのかなって」


事実、何度も思った事だった。

彼が結婚していると分かってから、何度も何度も思った事。


幸せになっていたんだろうか? とか。

結婚していたんだろうか? とか。

ずっと、一緒にいられたんだろうか? とか。

もっと早くに2人出逢って、誰よりも早く好きになっていれば、どれだけ幸せだっただろう――。


だけど、そんなの夢物語だって気づいた。

そんな綺麗なものばかりで現実は回っていない事くらい、私は知っている。


「今はもう思わないよ。きっと、こういう出会いだったからこそ私達は惹かれあったんだよ」

「――」

「お互いの足りないものを、欲しいものを埋め合っている。それって端から見たら寂しい事かもしれないけど、私はそうは思わない」


都合のいい女かもしれない。

会いたい時に会えて、たまに刺激を与えてくれる。

都合のいい女。

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