その手が離せなくて
◇
「じゃ、またね柚葉~」
「は~い。また連絡する~」
ご機嫌な様子で手を振る萌に笑顔を送る。
互いに別の方向の駅のホームへ歩き出して、帰路へとつく。
ふと時計を見ると、まだ12時前だった。
明日も休みだと思うと、なんだかこのまま帰るのが勿体ないくらいだ。
こんな時に、会いたいなぁ。と思う。
どこかでバッタリ会わないかな、なんて夢みたいな事を本気で考える。
一瞬携帯に目を移したけど、それでも考え直してポケットにしまった。
私からは不用意に連絡していない。
もしかして、今彼の隣には奥さんがいるかもしれないから。
彼の家庭を壊したくはない。
それは、私達の終わりでもあるから。
無条件に浮かぶ彼の笑顔を思い出して、電車の車窓から輝くネオンの街並みを見つめた。
彼はまだ仕事中かな、なんて思いながら。