その手が離せなくて





「じゃ、またね柚葉~」

「は~い。また連絡する~」


ご機嫌な様子で手を振る萌に笑顔を送る。

互いに別の方向の駅のホームへ歩き出して、帰路へとつく。


ふと時計を見ると、まだ12時前だった。

明日も休みだと思うと、なんだかこのまま帰るのが勿体ないくらいだ。


こんな時に、会いたいなぁ。と思う。

どこかでバッタリ会わないかな、なんて夢みたいな事を本気で考える。

一瞬携帯に目を移したけど、それでも考え直してポケットにしまった。


私からは不用意に連絡していない。

もしかして、今彼の隣には奥さんがいるかもしれないから。

彼の家庭を壊したくはない。

それは、私達の終わりでもあるから。


無条件に浮かぶ彼の笑顔を思い出して、電車の車窓から輝くネオンの街並みを見つめた。

彼はまだ仕事中かな、なんて思いながら。


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