その手が離せなくて

「望月、柚葉さん?」


振り返った瞬間聞こえたのは、どこか甲高い声。

それでも凛とした声で、大人な女性を感じさせた。

少し私から離れた場所に立つ、その人。

体にピッタリと張りついたスーツが、妙に似合っていた。

淡い街灯の下に浮かび上がるその姿が、妙に不釣り合いで眉を寄せる。


「そう・・・・・・ですけど」


誰だ? と思って訝しげに答える。

私の名前を知っているって事は知り合いだろうけど、見た所あんな人知り合いにはいない。


――だったら、誰?


そこまで考えた瞬間、脳裏にある事がよぎってドクっと心臓が嫌な音を立てた。

まさかそんな、とは思うのに嫌な予感は止まる事なく大きくなっていく。

誰かは分からないその人がコツコツと私に近寄ってくるのを見て、思わず後ずさりして逃げ出したくなった。
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