その手が離せなくて
覚悟していたからかもしれない。

こういう日が少なからず訪れるかもしれないと、覚悟していた。

こんな突然だとは思っていなかったけど、それでもこんな未来を予想していなかったわけではない。

完璧に隠し通せるものなんて、この世にはないのだから。


目に映るのは、まさに美人の形容詞とも言える程綺麗な女性。

姿やオーラを見ただけで、仕事ができるのだと分かる。

そして、夜風が頬を撫でた瞬間、彼と同じ柔軟剤の匂いが彼女から香って涙が零れた。

胸が締め付けられて、壊れてしまいそうだった。


――あぁ。

心が壊れてしまいそう。

叩かれた頬の痛みなんて、どうでもいい。

すりむいた膝の痛みなんて、どうでもいい。


目の前にいる女性が羨ましくて、仕方ない。

彼の隣に無条件でいる事ができる彼女が、羨ましくて堪らない。


それと同時に、すべての終わりが見えた。

私と彼の、終わりが。


「なんで高司がこんな、なんの取り柄もない様な女と不倫していたか理解できないわ」

「――」

「あんたも遊ばれているのが分からなかったの」


今にも飛び掛からんばかりの彼女に、ふっと笑う。

そんな私の姿が癇に障ったのか、彼女は眉間に皺を寄せた。

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