その手が離せなくて

「後悔するのね。人のモノに手を出したら、どうなるのか」


吐き捨てる様にそう言った彼女を茫然と見つめる。

それでも、想い浮かぶのは。

こんな時でも会いたいと思うのは。

やっぱり、あなただった――。


「彼を・・・・・・」

「――」

「幸せにしてあげてください」


私の言葉を聞いて、踵を返そうとした彼女の足が止まる。

振り返った瞬間、意味が分からないという様に眉を寄せた。

威圧する様なオーラに負けない様に、グッと唇を噛みしめる。


「大丈夫なフリしてるけど、本当はスゴイ寂しがり屋なんですっ」

「――黙って・・・・・・」

「仕事も大事ですけど、もっと彼の傍にいてあげてくださいっ」

「黙って!!」


再び頬に熱さを感じる。

目の前がチカチカしたけど、必死に踏ん張った。


「お願いだから・・・・・・」

「――」

「彼を誰よりも愛してあげてください。寂しさなんて、感じさせないであげてください」


世界で一番幸せでいてほしい。

世界で一番笑っていてほしい。

私は、もう一緒にいられないから。

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