その手が離せなくて
そんな私の言葉を聞いて、彼女は顔を真っ赤にして再び私の胸倉を掴んだ。


「なんでそんな事あんたに言われなきゃいけないのよっ!! あんたに高司の何が分かるっていうの!? ただ優しくされたからって恋人気分になっちゃってバカみたいっ!!」

「お願いしますっ。もっとちゃんと彼を見てあげて下さい」

「これ以上惨めにさせないでっ!! あんたみたいな何の取り柄もない人間を側に置いて、自分の価値を保とうとしていたのが分からないのっ!? 高司はあんたの事なんてこれっぽっちも好きじゃないわよ。ただ利用してただけ。若い体が目的だっただけよ!!」


怒りで涙を流した彼女の瞳をじっと見つめる。

そんな私を見て一瞬たじろいだけれど、突き放す様に私を地面に叩きつけて荒い息を落とした。


「もう二度と私達の前に現れないで。次高司に会ったら、裁判でも何でもしてやるわ」


吐き捨てる様な言葉を後に、カツカツとヒールの音が消えていく。

暗闇の中には、いつしか私一人だけになっていた。


今更になって頬に痛みを感じる。

そっと手を添えると、燃えるように熱かった。


だけど、そんな事はどうだっていい。

この頬の痛みなんて、どうだって。


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