その手が離せなくて
付け足した様に零れた言葉が、過ぎ去っていった電車の音にかき消される。


好き。と断言できなかった自分に、嫌気がさす。

それでも、5年間ずっと寄り添った彼氏よりも、今の私の心の中は、あの日の事でいっぱいだった。


「・・・・・・また、会えるかな」

『え? 何? 周りが煩くて聞こえない』

「ううん。何でもない。電車きたから切るね」


萌の煮えきらない返事を聞いてから、電話を切る。

途端に零れたのは、大きな溜息だった。



――――あの合コンパーティーから2週間が過ぎた。

仕事が忙しくてあっという間だったけど、彼と過ごした時間は少しも色褪せる事なく心の中に刻まれている。


どこか変わった出会いだったからだろうか。

過ごした時間が楽しかったからだろうか。

何をしていても、どこにいても、考えてしまう。


どうして、連絡先を交換しなかったんだろうって――。


< 27 / 366 >

この作品をシェア

pagetop