その手が離せなくて
不意に携帯の着信音が、音を無くした世界に落ちる。
ゆるゆるとベットの端に置かれたソレに視線を向けると、何度か見た名前が画面に映し出されて、出なければと思う。
それでも、到底動けるはずもなく、一定のテンポで鳴り続ける音に耳を傾けた。
着信の相手は萌だった。
なかなか返事をしない私を心配しているんだと思う。
最後に会ったあの日が、何日前か分からない。
昨日だったかもしれないし、一週間前だったかもしれない。
それくらい、時間の流れ方が曖昧だった。
上司には、風邪だと言った。
ズル休みをしたのは、初めてだった。
それでも、もうそろそろ行かなければ周りに迷惑がかかる。
ミシミシと音が鳴りそうな体を起こして、ベットから降りる。
頭がぼーっとするのに、お腹がグゥっと鳴って、なんだか笑えた。
私は、これからどうなるんだろう――。