その手が離せなくて


















――・・・・・・コツ。


久しぶりに来た会社のエントランスの前で足を止める。

結局2日も休みをもらってしまった。

きっと仕事が山の様に溜まっているんだと思うと、鬱々とした気持ちの反面、少し嬉しかった。

何かをしている時は、何も考えなくて済むから。


大きく息を吐いて、無理矢理頬を持ち上げる。

こんな暗い顔で職場にいちゃいけない。

何かあったのか聞かれる事も嫌だったし、それに周りの空気を乱したくなかった。


「大丈夫。大丈夫」


自分に何度もそう言い聞かせて、パンと一度頬を叩いた。

コダマする様に聞こえる、彼女のあの日の言葉と。

緑の中で笑う彼の笑顔を振り切る様に、足を前に出した。



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