その手が離せなくて
「おはようございますっ」
いつもより、どこか元気よく扉を開けて大きな声でそう言う。
見えたのは、いつもの事務所、いつもの顔ぶれ。
――それでも違ったのは、私に向けられる視線。
「お、おはようございます」
どこか、余所余所しく入口の一番近くにいた後輩が私を見て慌てて会釈した。
不自然なその姿に、思わず首を傾げる。
視線を事務所の中に移せば、まるでさっきまで私の事を話していたかのように、私の姿を見た瞬間慌てて笑顔を添えて会釈をしたみんな。
そして、固まって話していた人達が散り散りに自分のデスクへと戻っていった。
チラリと私を見る視線はどこか冷たくて、軽蔑している様に見える。
嫌な予感が湧き上がって、ドクドクと心臓が早まる。
体中が一気に冷えて、暑くもないのに汗が背中を伝った。
そんな時。
「望月」
不意に名前を呼ばれて我に返る。
声のした方に視線を向けると、仲の良い先輩が私を手招きしていた。