その手が離せなくて

酷く後悔したのは、部屋に帰って1人になった時だった。


誰もいない真っ暗な部屋に帰ってきて、ベットの上で鳴らない携帯を見つめた時、言いようのない孤独感に襲われた。

頭の中が後悔でいっぱいになって、胸が締め付けられた。


思い出すのは、あの笑顔。

瞳を垂らして屈託なく笑った、あの笑顔。

何度も何度も、話した言葉を頭の中で繰り返す。


彼氏の事なんて、脳裏によぎりもしなかった。

頭の中は、彼でいっぱいだった。

あの、一ノ瀬高司に――。


会いたくて、堪らなかった。

二度と会えないと分かっているのに、どこかでばったりと会うのではないかと期待している自分がいる。

そんな美しい物語なんて、あるはずないのに。



こんなに数えきれない程の人達の中で偶然出会った私達。

その偶然が再び起こるとは、現実の中で生きている私は信じもしなかった――。


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