その手が離せなくて


準備万端になった所で思わず出た溜息。

会社の代表として来ている以上、成果を出さなければ。


「頑張らなきゃ」


小さくそう呟いて、窓の外に目を向ける。

傾き始めた太陽が照らすのは、見慣れたビル群。

沢山の窓の向こうには、せかせかと仕事に追われる人々が見えた。

そして、視線を下に向ければ数えきれない程の人達がうごめいていている。


あたり前になった光景。

毎日出会う人達とは、本当に一期一会。


だから、どうしてかな――?

『出会い』という事に、感心がなくなった。

過ぎ去っていく人に、興味がなくなった。




「お待たせしました」


カチャと不意に真っ白な扉が開いて、プロジェクトチームの人が入ってきた。

途端に我に返って、椅子から立ち上がりながら急いで笑顔を作る。


さぁ。

仕事だ
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