その手が離せなくて

「――ハァッ」


辿り着いたのは、場所も分からない路地。

街灯もないそこは、まるで世界から切り離されたように暗い。

それでも、ようやく一人になれた瞬間、その場に崩れ落ちた。


それと同時に、涙がハタハタと地面にシミを作る。

冷たい地面が、これが現実なのだと教えてくれる。

空っぽになった心で、荒い息のまま空を見上げた。

そこに見えるのは、嘘みたいに綺麗な月。


「――終わっちゃった・・・・・・」


ポツリと落ちた言葉が、世界に落ちる。

掴まれていた腕にそっと手を乗せたけど、彼の熱はとっくに消えていた。

その瞬間、胸を突き上げる苦しみに涙の量が増す。


「ふっ・・・・・・うぅ~っ」


終わって、しまった。

私の恋が、短すぎた季節が終わってしまった。

自分で決めた事なのに、後悔ばかりが襲い掛かる。

会いたいと、狂おしいくらい思う。


「嫌だよぉ・・・・・・嫌だ嫌だ嫌だ嫌だっ!!」


狂ってしまいそうだと本気で思った。

ぶつける事もできない気持ちが胸の中で暴れまわって、狂ってしまいそう。

あなたが消えた世界なんて、生きている意味もない。


「一ノ瀬さんっ」


愛していた。

心が壊れてしまう程、狂ってしまう程、愛していた。

だけど、もう側にはいられない。

だから、さよなら。

さよならだね、一ノ瀬さん――。


「愛してる、一ノ瀬さん……」


狂おしい程伝えたかった想いは、誰にも届く事なく消えた。

そして、声をあげて泣いた。
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