その手が離せなくて
歩いていく
「忘れ物ない?」
紅茶を飲み終わった私に、目の前の萌が問いかける。
その言葉に小さく笑って、腕時計に目を落とした。
そろそろだ、と思って。
「あったとしても、あっちで買うから大丈夫だよ」
「そっか・・・・・・そうだよね」
海外じゃあるまいしね。と言って笑った萌にニッコリと微笑み返す。
そんな私を見て、萌は視線を伏せた。
「だけど、九州なんて海外みたいなもんだよ・・・・・・」
「――」
「簡単に会える距離じゃないじゃん」
小さな唇を尖らせた萌は、まるで駄々をこねる子供の様に見えて可笑しくなる。
だけど、そう思ってくれた事が嬉しくて思わず頬が緩んだ。
「長期休暇の時は帰ってくるよ」
「――」
「帰ってきたら、また飲みに行こう? ね?」
そう言って萌の顔を覗き込んだ私に、萌はキッと視線を上げた。
大きな瞳は私を真っ直ぐに射抜いて、思わず出しかけた言葉を飲み込んだ。