その手が離せなくて
そのあまりの勢いのよさに、思わず目を見開く。

それでも、なんだか可笑しくなってきて耐え切れずクスクスと笑った。

そんな私を見て、萌は今度こそ本気で怒ったのか、思いっきり私を睨み付けてきた。


「冗談じゃないんだからっ」

「分かってるよ。ふふっ」

「も~っ!! 真剣に聞いてよっ!!」

「ごめんごめん」


ケラケラと笑う私と、顔を真っ赤にして怒る萌。

相反する表情の私達を、通り過ぎる人がチラリと見て行った。

その姿の向こうに見えるのは、大きな飛行機。

青空の下に、綺麗に並んで待っている。

もう少ししたら、あれに乗って私は慣れ親しんだ東京をあとにする。


――やっと、ここから逃げる事ができる。


「ありがとう、萌」


萌の顔を見ずに、真っ白な機体を見つめて言葉を落とす。

何故か、萌の顔は見る事ができなかった。

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