その手が離せなくて





「すいません、少し会社に確認の電話を入れてもいいですか?」


打合せも終盤に差し掛かった頃、デスクの上に散らばった資料に目を通しながら、席を立つ。

バッキバキに固まった首を回しながら打合せ室を出て、小さく溜息を吐いた。

ある程度まで話は纏まってきたが、やはり上の確認も取っておきたい。


カツカツとヒールを鳴らしながら、人気のない廊下の端に向かう。

洗練された真新しいオフィスだからか分からないが、すれ違う人達はどこかエリートのように見えてしまう。

自然と胸を張って歩くが、どう頑張っても知能レベルは勝てないと思い少し落胆する。

見栄を張った自分を哀れに思いながら、途中にあった自販機を横目に、帰ったらビールだな。と心の中で呟いた。


Trrrrr・・・・・・


電話の呼び出し音を聞きながら、壁に掛けられた綺麗な海の絵画を見つめる。

そういえば、しばらく海なんて見てないなぁ。

来年は萌とどこか綺麗な海にでも遊びに行こう。

それまでにダイエットしておかなきゃ。


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