その手が離せなくて
「そう言ってくれるのは、もう萌だけだよ」

「――」

「ありがとう」


小さく頭を下げた私を見て、萌は瞳を歪めた。

それでも、頭を下げた私の姿を見て諦めたのか、萌は浮かしていた腰をゆっくりと元に戻した。


「・・・・・・本当は、ね」


僅かな沈黙の後、まだほのかに温かいカップを両手で包んで声を落とす。

何も言わない萌は、ただただ瞳を伏せているだけだった。


「萌の言っている事、全部当たってる」

「――」

「九州なんて行きたくないし、今すぐにも泣き出して、駄々をこねて、彼に会いに行きたい」


心の中のもう一人の私が、今にもそうしてしまいそう。

油断したら、駆け出してしまいそう。


「だけど、そんな未来誰も望んでない。だから私は消えなくちゃ。すぐに駆けていけないように、ここから遠い場所に行かなくちゃ」


青い空は繋がっているというけれど、今はまだそれが悲しく思う。

この空の下のどこかに彼がいるのに、どうして側にいればいんだろうって。

どうして、会いに行けないんだろうって。

そう、思ってしまう。
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