その手が離せなくて
今にも雨が降ってきそうな外の景色を見つめながら、頭の中で夏の計画を進める。

いくつになっても、やっぱり夏は好きだ。

日は長いし、服は可愛いし、イベントも多いし。

内心ウキウキになりつつ、携帯から聞こえる呼び出し音に耳を傾ける。


そんな中、不意に耳に飛び込んできたのは、革靴の音。

カツンと小さく音を立てて、静かだった廊下に音が生まれる。


反射的に視線を音が聞こえた方に向けた。

誰もいない廊下の隅。

自販機だけが何台も並ぶ、この空間。


そこに現れたのは、スーツを着た一人の男性。

片手をポケットに入れて、もう片手には小銭が握られている。


一瞬、幻かと思った。

そんなはずないって。


だけど、電気が走った様に体が震えた。

頭の中が真っ白になって、言葉を失う。


驚くほど、精悍な顔立ち。

ビー玉の様な瞳。

あの日見た、あの姿。

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