その手が離せなくて
「え・・・・・・?」
言葉を失って茫然と立ち尽くす私に向けられたのは、そんな声。
何度も何度も、頭の中で繰り返し聞いた、声。
私と同じ様にその瞳を見開いて、驚いた顔でこちらを見つめている。
『もしもし?』
そんな中、いつ繋がったか分からないが、電話の向こう側で先輩の声が聞こえる。
その声で我に返った私は、今にも落としそうだった携帯を握り返して声を出す。
「す、すいませんっ。また掛け直しますっ!!」
裏返りそうな声でそう言って、急いで通話を切った。
その途端に、聞こえたのはクスクスと笑う、声。
「まさか、こんな事が起こるとはね」
瞳を垂らして、微笑むその顔。
精悍なその顔を惜しげもなく崩して、笑っている。
ドクドクと心臓が早鐘の様になる。
嬉しさが溢れて、無意識に頬が上がっていく。
あぁ――また、会えた。
「一ノ瀬さん」
あなたに。