その手が離せなくて

「え・・・・・・?」


言葉を失って茫然と立ち尽くす私に向けられたのは、そんな声。

何度も何度も、頭の中で繰り返し聞いた、声。

私と同じ様にその瞳を見開いて、驚いた顔でこちらを見つめている。


『もしもし?』


そんな中、いつ繋がったか分からないが、電話の向こう側で先輩の声が聞こえる。

その声で我に返った私は、今にも落としそうだった携帯を握り返して声を出す。


「す、すいませんっ。また掛け直しますっ!!」


裏返りそうな声でそう言って、急いで通話を切った。

その途端に、聞こえたのはクスクスと笑う、声。


「まさか、こんな事が起こるとはね」


瞳を垂らして、微笑むその顔。

精悍なその顔を惜しげもなく崩して、笑っている。


ドクドクと心臓が早鐘の様になる。

嬉しさが溢れて、無意識に頬が上がっていく。



あぁ――また、会えた。


「一ノ瀬さん」


あなたに。


< 34 / 366 >

この作品をシェア

pagetop