その手が離せなくて

「寒いっしょ? うちの会社節電とか言って廊下は暖房効いてないんだよ」

「あ、ありがとうございます」


ぷしゅっと気持ちのいい音をさせて、手渡された缶コーヒーと同じものを飲み始めた一ノ瀬さん。

普通にコーヒーを飲んでいるだけなのに、妙に色っぽく見えてしまうのはどうしてだろう。

細見のスーツを着こなしたその姿に、思わず見惚れてしまう。

私服も抜群にかっこよかったけど、やっぱりスーツ姿は永遠の女子の憧れだと思う。

スーツ好きな私にとっては、何割か増しに見える。


「・・・・・・驚きました」

「ん?」

「まさか、こんな再会をはたすなんて」


暖かい缶コーヒーを握りしめながら、首を微かに傾げた一ノ瀬さんを見上げる。

何度も何度も思い出を繰り返した中で出会った、あの瞳を見つめて。


「俺も驚いた」

「――」

「まるでドラマだな」


その言葉に、笑みが零れる。

微笑んだ彼の笑顔を見て、世界が輝いて見えた。


< 38 / 366 >

この作品をシェア

pagetop