その手が離せなくて
「寒いっしょ? うちの会社節電とか言って廊下は暖房効いてないんだよ」
「あ、ありがとうございます」
ぷしゅっと気持ちのいい音をさせて、手渡された缶コーヒーと同じものを飲み始めた一ノ瀬さん。
普通にコーヒーを飲んでいるだけなのに、妙に色っぽく見えてしまうのはどうしてだろう。
細見のスーツを着こなしたその姿に、思わず見惚れてしまう。
私服も抜群にかっこよかったけど、やっぱりスーツ姿は永遠の女子の憧れだと思う。
スーツ好きな私にとっては、何割か増しに見える。
「・・・・・・驚きました」
「ん?」
「まさか、こんな再会をはたすなんて」
暖かい缶コーヒーを握りしめながら、首を微かに傾げた一ノ瀬さんを見上げる。
何度も何度も思い出を繰り返した中で出会った、あの瞳を見つめて。
「俺も驚いた」
「――」
「まるでドラマだな」
その言葉に、笑みが零れる。
微笑んだ彼の笑顔を見て、世界が輝いて見えた。