その手が離せなくて
こんな偶然ってあるだろうか。
会いたいと願っていた人に。
もう二度と会えないと思っていた人に。
こんな所で偶然再会するなんて。
「驚きすぎて、私酷い顔だったでしょ?」
「幽霊でも見たみたいな顔してたよ」
広い廊下に零れるのは、2人の笑い声。
あの日と、同じ。
もう一度与えられたチャンス。
もう後悔はしたくない。
グッと拳を握りしめて、伏せていた瞳を持ち上げる。
そして、缶コーヒーに口をつけた一ノ瀬さんをじっと見つめた。
「あのっ――」
意を決して声を出した。
連絡先を聞こうと、勇気を出して。
それでも―――。
「あ。ゴメン電話だ」
面白いぐらいのタイミングで、一ノ瀬さんの携帯の着信音が響き渡る。
片手をあげて私の声を制しながら、ポケットから携帯を取り出した彼は、一気に仕事用の顔になった。