その手が離せなくて
「それじゃ。打合せ頑張って」
喉まで出ていた言葉を押し込められて、そのまま茫然と立ち尽くす。
そんな私に優しく微笑んでから、電話に出た一ノ瀬さん。
コツコツと革靴を鳴らしながら、長い廊下を颯爽と歩いていく。
あの日駅のホームで見た光景と同じものが、そこにあった。
「なんか・・・・・・運がいいのか悪いのか分からないんだけど」
偶然また再会して、一気にテンションが上がった私だけど。
ようやく連絡先が交換できると思ったら、再びフラれて1人佇んでいる。
「なんなのよっ!!」
幸運から一気に不運になった自分の状況に、腹正しさが沸き起こる。
持っていた缶コーヒーを一気にあおって、勢いよくゴミ箱に投げ入れた。
「何モジモジしてんのよ、自分っ!! しっかりしてよねっ!!」
無駄に女の子になってしまった自分に喝を入れて、足早に廊下を闊歩する。
悔しさと切なさと、少しだけの嬉しさを胸に抱きながら。