その手が離せなくて
雨と傘
「疲れた・・・・・・」
長い打合せを終えて、ようやく帰路につく。
仕事疲れなのか何なのか分からないけど、なんだか妙に疲れた。
両脇に大量の資料を抱えて深い溜息を吐きながら、会社のエントランスを抜ける。
大企業ともなれば、エントランスまでもが洗練されていて、さすがだなと思う。
そんな事を思いながら、大きなガラス張りの自動ドアを抜けた瞬間、思わず動かしていた足が止まった。
「嘘でしょ」
ポロリと零れた声を掻き消す程の雨。
真っ暗になった道には、突然の雨に慌ただしく走る人の姿が見えた。
「誰よ。今日は青空が広がるでしょう。って言ったの」
天気予報を信じて、もちろん傘なんて持ってきていない。
この会社に置き傘くらいはあるだろうけど、取引先に借りるのはなんとも気が引ける。
それに、両脇には抱えきれないほどの資料。
傘をさして歩くには、濡れる危険性がある。
だからと言って、タクシーで帰るなんてそんなリッチな事できない。